第14回「音楽づくり」夏の研究会

第14回「音楽づくり」夏の研究会

ワークショップ4

ハタガヤ・マリンバ

目戸 郁衣

帝京大学

   「ハタガヤ・マリンバ」は作曲家である森田恭之進氏が坪能由紀子氏からの依頼を受け、作曲した作品である。楽譜上ではマリンバ4重奏となっているが、使用する楽器は1台である。旋律は「民謡音階」「琉球音階」「都節音階」の3音階が音の組み合わせによって移り変わるようになっている(譜例1)。

譜例 1 音の選択

譜例1を見るとマリンバ2、マリンバ4に2音が3種類書いてあり、音の選択によって音階が移り変わっていくのである。音階の移り変わりを感じ、それぞれの音階の違いを実感することが本作品での音楽づくりのねらいとなるだろう。

 ワークショップ当日、まずは手拍子でリズムの重なりを感じることから始まった。8拍のリズムパターンを4拍ずらしで順に加わっていった。その後はマリンバで演奏をするということを見越し、両手を使った膝打ちで同じようにリズムパターンを鳴らしていった。最後の人に回るまで叩き続けると、自分たちの音が教室を満たし、自然と参加者の耳や身体に馴染みのあるリズムパターンとなっていった。

譜例 2 リズムパターン

 その後、「ハタガヤ・マリンバ」の模範演奏を行った。それぞれの音階に決まった色を設け、音階が移り変わる時には森田氏が奏者に向けて音階に設けた色と同色の色紙を提示することで曲が進行していった。また、マリンバの鍵盤に同色の付箋を貼ることで鳴らす音板をわかりやすくしていた。筆者はマリンバ2の奏者として模範演奏を行ったが、演奏している際には森田氏の指示を見落とさないようにすること、音階の移り変わり時に音を間違えないようにすることに必死で自分たちが演奏している音を聴き取り、音階の違いを楽しむところにまでは全く意識が向かず、残念であった。

 この模範演奏を終えると、今回のワークショップのメインイベントとなる参加者による演奏の実践となった。まずは模範演奏を行った奏者と共に演奏が開始された。この際、筆者は演奏時にリズムパターンを変え、即興でリズムづくりを行うことで「ハタガヤ・マリンバ」に表現の自由さを加えていった。全員が演奏を実践する中でもマリンバ2、マリンバ4の音を選択するパートの担当者もリズムパターンを変え、即興を行っていた。リズムパターンが自由につくられることで本作品は音の選択だけでなく、リズムの自由さが加わりより面白味のあるものとなったと考えられる。

 不思議なことに筆者は演奏時には自身のことに精一杯となり、音階の違いを楽しむことができなかったのだが、聴き手となった時にはそれぞれの音階の違いを聴き取ることができ、音階の移り変わりを楽しむことができた。そして、この音階の違いを森田氏の色紙によって音階名と結びつけて聴くことができた。こうした実体験を踏まえると、色紙は奏者への指示だけでなく、聴き手の聴き取りにも効果的であったといえる。

 このワークショップを振り返り、以下で小学校等の授業で用いる方策を考えていくこととする。冒頭に記した通り、音階の移り変わりを感じ、それぞれの音階の違いを実感することが本作品での音楽づくりのねらいとなるであろう。もちろん、楽譜通りに演奏をすることでもねらいを達成することは可能であると考えられる。しかし、そうなった場合には「音楽づくり」としての創造性の幅が狭く、子どもたちにとって窮屈な活動となることが予想される。そのため、本ワークショップで行ったように音の選択以外にリズムの自由さも設け、表現の幅を広げていくことは必要となってくるのではないだろうか。また、森田氏が行っていた色紙の提示を子どもが行うことで、他児がつくった作品をより音階の移り変わりを意識しながら聴くことにつながっていくと考えられる。さらに本活動を発展させる方策として、上記のように表現の幅を広げ、子どもが音階の提示を行う「ハタガヤ・マリンバ」をドローンとして用いるのはどうであろう。その上で各音階を用いた旋律づくりを行い、重ねていくことができるのではないだろうか。1つの作品としても演奏することができ、即興の要素も含まれた曲に、さらにつくった旋律を重ねることで音楽がより複雑になり、子どもたちの経験を豊かにしていくのではないだろうか。それだけでなく、即興を用いてつくられたドローンと旋律づくりが合わさることでその都度全く違った演奏となり、まさに正解のない、創造性の凝縮されたものとなるであろう。

このことから、「ハタガヤ・マリンバ」は音楽づくりにおいて画期的な教材となる可能性を秘め、教員の手によって多くの方策を考えることができるといえる。鍵盤打楽器1台でできるという手軽さもあり、是非教育の場で活用してもらいたい作品である。

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