第14回「音楽づくり」夏の研究会

第14回「音楽づくり」夏の研究会

ワークショップ3

循環コードで音楽づくり

―ビーバーのパッサカリアから―

藤本茉里恵(東京大学大学院教育学研究科院生)

1. はじめに

坪能由紀子氏からお誘いいただき、ビーバーのパッサカリアを使った授業づくりにTASモデルのS(サポーター)として参加した。筆者はクラシック演奏を専門的に受けてきたが、即興や教室での演奏経験はない。多少不安はあったが、Tの古田氏やAの坪能氏に支えられ、とても楽しくワークショップを実施することができた。

2. ワークショップの流れ

筆者の演奏によるビーバーのパッサカリアの鑑賞から始まった。(動画1)その後、Garage Band でビーバーの循環コード(G―F―E♭―D)に乗せたメロディづくりに各々が取り組んだ。そして、メロディのアイディアを取り入れる目的でもう一度ビーバーを部分的に鑑賞した。その後、一人ずつGarage Bandで短いメロディを弾いてもらい、それを筆者がヴァイオリンで「真似っこ」していった。(動画2)

後半はガラッと雰囲気を変え、坪能氏と味府氏による循環コードを用いた箏での即興に希望した参加者が加わった。(動画3)最後は木下氏のピアノ、中村氏のベース、川口氏のパーカッション、筆者のバイオリンでのワルツ, ジャズ, タンゴ風の循環コードに合わせて参加者全員がマリンバで即興をした。(動画4)

3.考察

古田氏は鑑賞というインプットから即興というアウトプットを増やす構成を作ってくださり、坪能氏は箏やベースを入れた様々なジャンルでの即興を提案してくださった。筆者自身も体験したことがないような、即興を中心に展開していく音楽の授業づくりにワクワクした。ただ、いざ参加者が即興するときに「間違い」がなくても楽器を前に「どうすればいいのか」と不安を感じることもあるのではないか、と思った。そこで、どのように授業の中で即興をサポートできるのか、今回学んだことを記しておきたい。

楽器の操作性 即興で使用する楽器として、マリンバや箏など操作しやすい楽器が用意された。また今回参加された先生方からはGarage Bandでは、「ストリングス」の設定よりも「キーボード」の方がわかりやすいとのご意見があった。デジタルでもアナログでも楽器の操作に慣れていなければ意図的に音を出すことができない。即興を楽しんでもらうにはある程度その楽器に慣れていることが大事だと実感した。

楽器に合わせた調性 楽器が弾きやすいように箏ではg-moll、マリンバではa-mollで即興した。

テクノロジーの使用 Garage Bandでは設定で何調にもどの楽器にも設定できる。また、音楽づくりの際に循環コードをスピーカーからずっと流すこともできる。さらに、楽器が家にない子供たちもタブレットがあれば家で弾くことができて、今更ながらその便利さを痛感した。

伴奏とメロディ 「伴奏」というと受け身になりがちだが、雰囲気が寂しくならないようにメロディも適度に入れる必要があると思った。また、メロディのアイディアをSが出すことで即興がしやすくなるだろう。その上で、参加者の出した音を真似っこやアレンジして返しコミュニケーションを取ることが大切だと思った。

次に、音楽づくりの授業に関わることでの演奏家側のメリットを記しておきたい。

鑑賞 これは一個人の感想だが、ホールで演奏をするときよりも教室の方が心的距離が近く弾きやすい。また、クラシックに詳しくない人にも楽しんでもらおうと、自然と弾き方を工夫したくなった。さらに、フィードバックをすぐに受けることができて、まさにコミュニケーションの中で演奏が生まれていると実感した。このような演奏機会はとても貴重だと思う。

真似っこや即興、伴奏 音楽大学の聴音や音楽理論の授業で習った専門的知識やスキルを使ってインテラクティブに遊べるのはとても楽しかった。真似っこや即興では、その場の音を聞いて反応する力、アレンジを瞬間的に加える力、伴奏では様々なジャンルに対応する力、アンサンブル力、転調など様々なスキルが育まれる。音楽大学で即興や真似っこをする授業があっても良いと思った。

4.これから

一般的な音楽の授業では、音楽家を目指さなくても(むしろ目指さないからこそ)生徒たちが音楽の本質を楽しく体験できる授業が必要だと思われる。そのような場に演奏家、もしくは演奏家を目指している者が関わることで、演奏家側も音楽の本質や意義を体験し直す機会になる。これから、音楽づくりの授業にもっと多くの演奏家が関われることを願う。

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